フタバから遠く離れて

福島第一原発事故の影響で故郷から離れた場所で避難生活を送っている双葉町民の姿を追ったドキュメンタリー映画の上映会が東海村の白方コミュニティーセンターでありました。


この映画のことは以前から聞いていましたが、なかなか見る機会がありませんでした。今回も福島に行ってお手伝いをしようかとも思っていましたが、映画の上映だけでなく、事故当時の町長である井戸川克隆氏と、この映画を作った船橋監督の講演会があるということ、しかも原発のある村である東海村で上映される、ということで見に行くことにしました。

白方コミュニティーセンターは原発から約1kmの場所にあり、周りには原発関連施設が多数あります。
そんな場所で原発事故のその後を描いた映画を見るというのはなんともシュールです。

まず午前中に映画の上映がありました。
埼玉県にある廃校になった高校の校舎が避難所になっています。ここに町長を始め住民がそっくり集団で避難生活をしています。何人かはインタビューに対してさまざまな思いを語っていました。他にも自衛隊の楽団がコンサートを開いたシーン、テレビで東京電力の社長が謝罪しているのを見ているシーン、天皇皇后両陛下がお見舞いにきたシーンなどが描かれています。
避難生活に疲弊している様子が映されているのを見るのはもちろん悲しいのですが、一番印象に残るのは、一時帰宅するシーンです。

海沿いの地区に家があった人の場合は津波で流されてしまっていて家の跡形もない場所に亡くなった母親に花を供えていました。父親は動転してしまって持ってきたはずの線香を探しています。そこに、一緒に来た息子さんが、時間が無いから早くして、と声をかけます。たまっている水には触るな、とも声をかけます。原発の爆発によりとにかく急いで避難しなくてはならなくなり、震災直後に行方不明になった母親の捜索も満足に出来なかったとのこと。ちゃんと捜索できていればもしかしたら助かった命かもしれないという思いがありました。

津波の被害が無かった地区の場合もまた悲しい現実があります。リアルタイムで聞いた時も他の映像作品で見た時もそうだったけど、一時帰宅の時に何を持って帰るかという所で涙が出ます。自分の家なのに地震で乱雑に崩れた家の中の片付けもろくに出来ず、自宅から持ち帰ることが許されるのがビニール袋1枚に入る分だけだなんて。我が身に起こったらどうなるだろう。




お昼休憩の後は井戸川前町長の講演会です。その前に、予定には無かった東海村の村上村長の話がありました。井戸川前町長の話は、当事者の生の声を聞く貴重な機会でした。前町長は事前にレジュメを用意していましたが、約1時間では話が終わらなかったため最後は省略されてしまいました。

次は船橋監督の話です。この映画を撮った時の話に限らず、国や県のシステムについても述べていました。監督も話し始めたら止まらないタイプらしく、進行係から止められるシーンも見られました。

その次には監督と前町長、それに避難所で住民のためのカフェを運営している双葉町民の方によるトークと参加者からの質問タイムでした。前町長はこのトークの途中で退席されました。もっとたくさん話を聞きたかったのですが、次の講演に向かうため移動しなくてはならないということで残念でした。

そして最後には椅子を丸く並べて監督や双葉町民と友に交流会となりました。ここでは双葉町から親類を頼って日立市に避難している方の話も聞けました。避難先で地元の人に温かく迎えられたことなどを話している途中で涙ぐんでしまいました。相当の苦労はされているとおもいますが、こうやって話をすることで心の負担が軽くなるのではと思いました。

この交流会でも参加者からの質問がありましたが、せっかくなので僕も監督に質問してみました。
聞いたのは、今回のように原発立地市町村で上映した機会はあったのか、そしてその時の反応はどうだったか、ということでした。
監督からの答えは、厳密には立地市町村ではないが、これから原発を作ろうとしている山口県祝島で上映したことがあったとのことです。その島では、地元のじいちゃん、ばあちゃんが反対運動を行っていて、カネじゃない尺度を持っていて、補償金の金額が問題ではないと言っているそうです。
他の原発立地市町村でも上映して事故が起こった場合こうなるんだということを広く知らせてほしいとメッセージを送ったところ、10年20年後にも見てもらいたい映画にしたかったため、原発の修飾語は時代によって変わるのでナレーションは入れず、字幕も事実だけにしたとのことでした。

この後この日2回目の映画の上映となるので僕は会場を後にしました。

本当に、この映画をたくさんの人に見てもらいたいと思います。

ちなみに監督はこの日、日立市でロケをした映画「桜並木の満開の下に」がひたちなか市で上映されるのに併せて舞台挨拶に茨城に来たようでした。


映画の公式サイトはこちら
今後の上映スケジュール等もあります。

この日の講演会等の様子はこちらでも中継されていました。一定期間は誰でも見られるようです。