座談会「地方で本を編む、つくる、届ける。」

f:id:ScouseKats:20190809180212j:plain

水戸芸術館の催し物の関連企画として、「地方で本を編む、つくる、届ける。」と題して出版社、装丁家古書店の3者による座談会が開かれました。登壇する3人の方の名前は知らなかったのですが、本造りに関する話なので興味を持ちました。
 
登壇したのは横浜で三輪舎という出版社を営む編集者の中岡祐介さん、京都を拠点に活動する矢萩多聞さん、そして同じく京都でマヤルカ古書店という古書店を営むなかむらあきこさんの3人です。
中岡さんとなかむらさんはひたちなか市出身で同じ中学に通っていて、中岡さんはなんと僕と同じ高校を卒業したとのこと。
この座談会自体は矢萩さんが水戸芸術館でワークショップを開くのに伴って思いついたとのことでした。
 
タイトルの「地方」というのは東京以外のこと。出版社は東京に集中していますが、あえて東京以外で本に関する仕事をしているのが3人で共通していることでした。
 
矢萩さんは中学で不登校になったのですが、10代をインドで過ごしたとのこと。インドも人は多いのですが、東京の人の多さとは質が違うと行っていました。僕も東京の人の多さには辟易していますので、その点は共感します。その矢萩さんは、本は本ができて完成ではなく、読まれて読者の心にどう届くか、までが本だ、と語ったのが印象に残りました。
 
なかむらさんの古書店は京都の一乗寺にあるのですが、一乗寺といえば恵文社という有名な書店があります。その店長の堀部さんはとても気難しい人だそうで、中岡さんが挨拶に行ったところ名刺を机の上にぽいっと投げられたそうです。中岡さんは気落ちしてお店を後にしたのですが、その直後に矢萩さんが店を訪れ、中岡さんの名刺に気がつき、それがきっかけで中岡さんと矢萩さんがつながったそうです。その繋がり方が京都的だと中岡さんは言いました。
 
その恵文社の近くになかむらさんの古書店があります。なかむらさんは古書店組合には入らずに買取中心で本を揃えているそうです。自分が何を売りたい、というのではなく、地域の人から本を買い取り、地域の人に本を売る、そうやって地域で本を回していきたい、と話していました。恵文社に行ったことはありませんが、堀部さんが新しい本屋さんを開くまでの顛末を定期購読している「本の雑誌」に連載していたのを読んでいたこともあり、一度は一乗寺に行ってみたくなりました。
 
中岡さんの出版社も、商店街の書店の2階に事務所を構えているそうで、地域とつながる出版をしているそうです。
本を買うだけならamazonでも買うことはできるけど、買った本についての話ができないのがつまらない。街の書店で買えば少なくとも店員さんはその本のことを知っているわけだから話ができる、という話も印象的でした。
 
最後に中岡さんは、急な告知にもかかわらず今日は多くの人が集まった、水戸でも何か本のイベントをやってみたい、と話しました。
 
 
参加者からはなぜ東京に出版社が多いのか、という質問がありました。なんとなく人口が多いからと思っていましたが、印刷費用や問屋の倉庫費用などのコストが東京中心になっていて、東京以外だと一度東京を経由しないといけないようになっていてコストが高くなってしまうため、とのことでした。
 
会が終わり、三輪舎の本も売られていたので、その名も「本を贈る」という、編集者や製本、印刷、書店営業などの本造りに関わる10人によるエッセイが載った本を買ってきました。そしてその本に編集した中岡さん、装丁しかつ執筆した一人でもある矢萩さんにサインを書いてもらいました。読むのがとても楽しみな本です。
 

f:id:ScouseKats:20190810091105j:plain

f:id:ScouseKats:20190810091146j:plain

表紙の絵の色が違う本が2種類あったのですが、2刷と3刷で色を変えただけで中身は同じ、とのことでした。こちらは緑色の2刷です。
 

f:id:ScouseKats:20190810091125j:plain

矢萩さんにサインをお願いしたら、さらさらっとイラストを描いてくれました。目の前で描いているのを見て感動しました。