「銚電スリーナイン ~Return to the Roots~」

千葉県の銚子電鉄で行われたシアターキューブリックのローカル鉄道演劇ver.7『銚電スリーナイン ~Return to the Roots~』に参加(乗車)した時の記録です。

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7月14日の第2便、15時00分発の乗車時間が近づき、銚子駅の2番・3番ホームの先にある銚子電鉄乗り場で乗車を待ちます。早速、ひたちなかでも車掌を演じた千田さんがここでもやはり車掌役で、乗車券を模した整理券にハサミを入れてもらいます。僕は申し込みが早かったおかげで、整理番号が1番だったので、出演者が演じる席のすぐ隣の席に座りました。

乗車してすぐ、男性が床に倒れているのでギョッとしました。いったいどんなストーリーなのか楽しみです。

 

発車時間になると役者さん2人も乗り込みます。主役のヒカルを演じるほしあいめみさんが僕の隣の席に座ります。出発すると走行音が結構するのですが、さすがは役者さん、大きな声で聞こえやすいセリフを話します。

 

普通の舞台のように照明とか効果音はなく、その代わりにアコースティックギターによる生伴奏が「いろんな風」という役名で芝居感を盛り上げます。俳優たちの話すセリフで、2人はどうやら違う時代の人物のようなのですが、なぜか同じ空間にいます。オリジナル脚本の舞台をあまり予備知識を入れずに観て、最初は困惑しながらも徐々にその背景がわかってくるのは気持ちの良いものです。

 

友達と海に行く約束をして遅れた現代人であるヒカルは、昭和27年を生きるイサムと普通に会話しています。途中で友達と合流するはずの君ケ浜駅に着いて、ホームには友達3人がいるのにヒカルは気がつかず降りそびれて、終点まで行ってしまいました。

 

銚子から約20分で着いた終点の外川駅では、まちあるきの時間がとってあります。この時間も演劇の一つですので、ガイド付きツアーに参加します。

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ガイドしてくださるのは地元に住む方でした。最初に行ったのは、外川観ミニ郷土資料館。先日放送されたNHKの「鶴瓶の家族に乾杯」でも出てきたところでした。ここで女将さんから簡単に外川の歴史を教えてもらいました。その途中で、ヒカルに合流しそびれた友達3人もやってきて、参加者を2つのコースに分けて、ヒカルを探しに行くことにしました。

 

僕が参加したのは「みはらしコース」。一人で歩いていたのでは気がつかないようなポイントも教えてもらいながら、外川の街や海が一望できる高台に案内してもらいました。銚子は東に突き出ている場所ということから海から昇る朝日が自慢なのは当然として、冬になるとなんと海に沈む太陽が見えるのだそうです。さらには富士山の姿も見えるとか。今日は晴れているものの海にはガスがかかっていて、空と海の境目が曖昧でしたが、夕日や富士山は写真で見せてもらいました。

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途中、船宿を改装したというカフェ「ゆうせい丸」で休憩します。とても暑いので、フルーツソーダを頼んでさっぱりとしました。

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休憩の後、坂道を下りて港の方まで行くと、探していたヒカルの姿が見えました。ところが、一緒にまちあるきに参加していた渚が呼びかけてもヒカルは無視して再びどこかに行ってしまいました。

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約1時間のまちあるきを終えて外川駅に戻ってきました。ここで今回の劇のパンフレット、シナリオブック、そして劇中歌のCDを購入しました。

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帰りの便もまたかぶりつきの席を確保しました。いや、どの席でも俳優さんが目の前で演じるのですが、すぐ隣の席や真向かいの席が役者席なのでやはりこの席が一番のかぶりつき席だと思います。

 

帰りの便から初めて登場したのは、ひたちなか海浜鉄道スリーナインでも重要な役を演じた高橋茉琴さんです。彼女はシアターキューブリック所属ではないので、出演するのを見るのはひたちなか海浜鉄道以来なのですが、その時の役柄と同じように、どうやら昭和27年を生きる人のようで、前半ではイサムのセリフにしか登場しない、なつという女性のようでした。後半から電車に乗ってきたなつは、女の子が生まれたらヒカル、男の子が生まれたらコウサクと名付けたいということをヒカルに話します。そしてコウサクというのはヒカルの父親の名前だったのです。ここまでくると、ヒカルもそして観客である僕たちにもこの2人の関係がわかりました。

 

昭和27年の世界では、もうすぐ銚子電鉄廃線になるかもしれない、という話題でもちきりだったのですが、平成30年の現代でもこうやって銚子電鉄は毎日走っています。そのことを誇らしくなつに伝えるヒカルの姿が感動的でした。

 

途中から乗ってきた友達3人は車内で見つけたヒカルに対して力一杯声をかけたり目の前で大げさな身振り手振りでアピールするのですが、ここでもやはりヒカルは気が付きません。でも本銚子の駅に着くアナウンスの瞬間にやっと気が付き、本銚子駅から乗ってきた男性に今が昭和何年かを尋ねて、もう昭和27年ではないことを知ります。さらには友達3人は乗客たちに現代を生きる人が必ず持っているであろうスマホを出させて、このタイミングで写真撮影をしてもよいことを観客に伝えます。そのシーンがこちら。まさに観客参加型の演劇です。

 

ちなみに本銚子駅から乗ってきた男性は、行きの電車の中では床に倒れていた男性でした。あの時は廃止になる銚電の電車のモーター音を聞きたくて床に寝転がっていたのだそうです。そして今は電車のモーター音を録音しているという、過去と現在の両方で別の人物を演じていたのでした。

 

終盤になって行きの電車の車内や、外川のまちあるきで見たことの話がつながり、そして現実の世界に戻ってきたのでした。

 

時代がクロスするのは「ひたちなか海浜鉄道スリーナイン」でも、銭湯が舞台の「寺島浴場の怪人」でもみられた設定でしたが、映画やテレビのような映像ではなく、生で演じる舞台で観ると果てしなく想像力が広がります。日常的な電車の中で非日常的な演劇を観るのは不思議な体験で、芝居を観るだけでなく参加している感じがするのですが、電車の中だけでなく、まちあるきの途中でもまだ劇が続いているというのがとてもおもしろいです。

 

 

ちなみにヒカルの友達3人組の一人、ささきくみこさん演じる浜子さんは行きの便では電車に乗れませんでした。ささきさんは、ひたちなか海浜鉄道スリーナインspring versionでも同じく浜子さんを演じてほとんど車内のシーンがなかったので、今回もまた乗らずに終わってしまうのかなとも思いましたが、帰りの便ではちゃんと乗ることができたので安心しました。

 

帰りの便で、途中で対向列車が遅れたので駅に着く前に少し停車するという場面がありました。もともと駅間を走る時間を計算して演じるのが鉄道演劇です。駅に着く前に先に話を進めてしまうわけにもいかないでしょうから、役者さんたちは間をつなぐ演技をしなくてはなりません。おもわず演出の緑川さんの様子を伺ってしまいました。