福島県富岡町には何度も訪れていますが、今回は「ふたば商工株式会社」で個人向けの視察に参加してきました。ちょうど桜の時期になるかも、と申し込んでいたのですが、果たしてどうでしょうか?
出発は朝の10時半にいわき駅前です。観光バスに乗る時に料金6000円を支払います。今日のガイドは女性の田中さんと男性の藤田さん。どちらも富岡町の方です。名前を聞いて思い出しましたが、藤田さんはこれまでもこの富岡町視察の案内人としてメディアに何度も紹介されている方でした。この日は福島放送のカメラも取材に入ってました。
最初は6号線を富岡町に向けてバスの中でのお話です。お二人の震災当日の話、町の避難所に行った話、翌日には町から避難することになった話など。文章で読んだことのある話ではありますが、当事者から直接聞くと重みが違います。
四倉や久之浜を通る時は話を中断して窓の外の説明をしてくれます。今は双葉警察署の臨時庁舎となっている道の駅ならはでトイレ休憩した後、富岡町に入ります。
海岸沿いに新しくできた仮設焼却施設の脇をバスは通ります。
富岡町では震災や津波で壊れた家の片付けがずっとできないでいたのですが、最近になってやっと片付けが始まったとのことで、これから復旧がスタートするといった感じです。
富岡駅でバスを降りての視察となります。少し前はまだ駅の改札口や跨線橋が残っていましたが、立ち入り禁止の表示を無視して中に入る人が多く、危険だということで撤去されてしまったばかりです。かつての駅舎の写真を手に田中さんが、すっかり様子が変わってしまった駅周辺の様子を説明してくれました。
駅の側には町の有志の方が建てた慰霊碑があるので、手を合わせます。
続いては富岡第一小学校の校庭で案内がありました。
地震の時に学校にいた子供たちは、その後は津波から避難するために西側に走って行ったそうです。その後住民が避難してしまったため学校の中はその時のままなので、後で親御さんが町に一時的に帰ってきた時に、学校に残っていた児童の私物などを取りにきたそうです。
それからここでは除染の話をしてくれました。建物の除染とはいわゆる拭き掃除で、人力で家や建物の壁をひたすら拭くのだそうです。そして庭などは土を削り取ります。校庭も一通りの除染が行われたので、よく見ると校庭に埋められていたはずの鋼管が浮いていたり、鉄棒の足元などが高くなっていることがわかります。でも除染するのはそこまでで、学校の周りの側溝などは除染しないそうで、藤田さんが手元に持っていた線量計は、校庭では0.2 μSvだったのが、側溝では7.7μSvを示していました。
小学校の近くには4年前の桜祭りのポスターがまだそのまま貼られていました。
次は双葉警察署の元の庁舎の隣にある公園に展示されている津波被災パトカーの見学です。
以前は海岸近くにありましたが、除染廃棄物を置く場所になったためというのと、今後も津波の記憶として残すため、防腐処理を施した上で保存展示されています。現在は屋根が付いているとはいうものの屋外での展示ですが、いずれできるであろう記念館に展示することになるそうです。
再び海岸沿いの断崖上にある宿泊施設、観陽亭に行きます。海岸から切り立った断崖上にあるとはいえ、実はその断崖の上まで津波が来たそうです。南の方には福島第二原子力発電所もはっきりと見えます。
第二発電所の方も津波の被害には遭ったのですが、所長の判断により危機一髪で原子炉の冷却を続けることができたそうです。もし第一発電所だけでなく第二発電所も冷却できなかったら東日本全滅、というのもあながち誇張ではありません。第一発電所の当時の吉田所長は原子炉建屋の爆発は防げませんでしたが、それでも吉田所長だったからそこまでで済んでおり、他の人だったらもっと酷い状況になっていたかもしれない、という案内人の言葉に安心するばかりです。
次はいよいよ夜ノ森です。実はここまで視察した場所は個人でも何度か訪れたところだったのですが、夜ノ森地区はまだ行ったことがありませんでした。今回の視察は3月のうちに申し込んでおり、もしかしたら震災以前から有名な夜ノ森の桜が見られるかも、ということで期待していたのですが、今年の桜は少し早めに咲いていたようで見頃は先週でした。今日はすでにピークを過ぎた桜が風に吹かれて散っています。桜並木の途中からは放射線量が高くなるため、帰還困難区域の境界のバリケードが設けられています。それでも町ではこの桜並木を住民が楽しめるように頑張って除染をしてみたのですが、まだ線量が高かったため今年の開放は断念したそうです。また来年に期待しましょう。
そして最後に案内してくれたのは、藤田さんの経営する会社の事務所や隣接する自宅です。もともと原発敷地内の食堂に食材を提供していた会社だったそうですが、震災後は作業員が冷たい食事ばかり食べているという話を聞いて作業員向けに暖かいお弁当を販売するようになったとのことでした。今のように自由に立ち入りができる前までは会社や家の様子を見ることもままならなかったので、ある時気がついたら天井が崩れていたそうです。普通は雨漏りなどがしてもまだ影響が小さいうちに手が打てるものなのですが、何ヶ月もほったらかしにしている状態なので気がついた時にはもう手遅れなのです。外見はなんともないように見えても中がダメになるというのは避難地域ではよく聞く話です。特に直接の地震や津波の被害に遭っていなくても住めなくなってしまった家がたくさんあり、とても気の毒です。そしてそのことをこうやって町外の人に説明するのも本当はつらいのでしょうが、それでも町の本当の姿を見て欲しい、というのが藤田さんや田中さんがこのような視察を行っている理由とのことでした。だから僕も見てきて感じたことをこうやってささやかながらでもブログで紹介しているのです。
最後は福島第二原発に立ち寄り放射性物質がついていないかスクリーニングして15時半には出発地のいわき駅前に戻ってきました。東京から十分日帰りできる時間ですし、個人でも参加できる日がありますので、興味を持たれた方はこちらをどうぞ。12人以上集まれば団体として案内してくれるそうです。
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