高嶺格のクールジャパン

水戸芸術館で開催されている現代美術の展示。年明け最初の開館日である今日のうちに見に行かないと逃してしまいそうなので見に行ってきた。

前回の展示「3・11とアーティスト: 進行形の記録」に引き続き、震災後の日本についてがテーマだと聞いていたが、実際に展示を見てみたところ、「クールジャパン」という言葉からイメージされるかっこいい日本というよりは、こんな日本で大丈夫なのか、と逆説的な意味の展覧会タイトルだということがわかった。

各展示室に入るのに、黒いフサを通って行く仕掛けになっているのだが、思っていたより深いフサでそれがまた次にどんな世界が広がっているのだろうという不安感を増している。

第1室が「クールジャパンの部屋」と題して、壁一面に書かれた消費社会を思わせるイラストで、次が「敗訴の部屋」。ここでは原発に関する住民訴訟に関する新聞の見出しが拡大されて展示されている。この辺でだんだん日本に未来はあるのかという気分にさせられる。

次は「標語の部屋」。五七五の語数に合わせた数々の標語がLEDで浮かび上がる。展示方法としてはジェニー ホルツァーを思わせるが現れる言葉は皮肉に満ちている。次の「ガマンの部屋」からは今度はスピーカーから流れる数々の「ガマンしなさい」の言葉だ。これも従順な日本人を思わせる。

第5室は「自由な発言の部屋」となっていて、一見何でも言える自由な世界、という明るいイメージに見えるが、インターネット上に吐かれた言葉が印刷されて部屋中に張り巡らされている世界は、どちらかというと自分だけは違うという自分勝手な世界という印象が残る。

そして第6室は「ジャパンシンドロームの部屋」と題された、3つの映像作品。関西、山口、そして水戸で街の商店で取材して拾った会話を舞台に再現したものだが、それぞれについて原発事故の影響を心配する客と、それに答える商店主との会話が主だ。それぞれ30分以上ある作品の中でシーンを変えて延々と同じような会話が繰り返されるのを見て、心が重くなった。

第7室は「核・家族の部屋」で、原爆そしてその後の世界各地で行われた核実験の年表と、ある家族の歴史を表す写真が並行して展示されていて、その対比がやはり心を重くさせる。

最後の第8室は「トランジットの部屋」。これまでの部屋に展示されていた彫像が着ていた衣服が脱ぎ捨てられ、合唱の音声が流れ、モニターからは何かのデモらしき風景が映し出され、時々悲鳴のような叫び声が聞こえてくるという、なんだか不安を感じさせるような展示で終わっていた。

今回の展示は、僕にはちょっと理解が難しい展示だった。

帰りにショップに寄り、予約しておいてショップに預かってもらっていたが、ずっと取りに行くことができなかった前回展示のカタログを受け取ってきた。

外に出るとすっかり薄暗くなり、芸術館のタワーもライトアップされていてきれいだった。


高嶺格のクールジャパン
2012年12月22日[土]から2013年2月17日[日]まで
http://arttowermito.or.jp/gallery/gallery02.html?id=341